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ポータブル ディーガン 制作記   2016. 01

ポータブル ディーガン 制作記   2016. 01

工作をこよなく愛するわたくし。
ここ何年かで一番の力作といえば、ヴィブラフォン(以下 Vib )を、持ち運べる形にする改造でした。
 
持ち主の「松井 朋子」(以下 朋りん)は、ボクがドラムのリハビリで始めたバンド「りはびゃん」で、パーカッション&ほか色々な楽器をやるハメになっちゃった、マルチプレーヤー。(^^)
 
本業はマリンバ奏者。「家に眠っている Vib がある」と聞き、ならば「りはびゃん」で活用するしかないっ、ってトコロから計画はスタート。
 

 
これが、眠っていた「DEAGAN」(松井宅)。ディーガン社は、1921年ころ、マリンバを元にヴィブラフォンを開発した会社。要塞のような重々しいつくり。(推定、70〜80キロ)とてもこのままじゃ、持ち運ぶのは不可能・・
 

 
ネットで調べると、こんな写真が。だいたいこんな形にすればいいのかと。
 
Vib は、音板(たたく金属の部分)だけでもすごく重い。女性ひとりでも持ち運べるよう、音板とフレームを分ける計画にて。
 
木工、金工、電気的作業。すべてが高次元な制作になるぞ〜。マイク内蔵にして、アンプから音を出そう。うわぁ、燃えるなぁ。楽しそうだなぁ。。かくして、改造の日々が始まったのでございます。
 

 
色々すっ飛ばして、出来上がったのがコレ。キーボードのスタンドに乗せてます。
運ぶ時は音板を外して、フレームに蓋をする仕様。(蓋をした写真、撮り忘れた〜)
 
設計図を書きつつも、行き当たりばったりで進めたこの作業。ホームセンターには、店員さんに顔を憶えられるほど通ったし、モノタロウ(ネジ・金物)や、マルツオンライン(電気パーツ)の通販を駆使して、部品を取り寄せながら。
 
改良も加え、ほぼ狙い通りの結果となりました。自信作。いぇ〜い!
 
中学生のとき、音楽室となりの楽器庫で Vib さわって、「おぉ、なんて良い音なんだ。」と思って以来、触れる事がなかった楽器。出来上がったあと、ちょいと叩いてみたけど、やっぱ、いい音だぁ。 &、
やっぱ、超むずかしいねぇ。若い頃からやってないとダメな楽器だ〜。(^^)
 
とまあ、
一般向けの文章は、とりあえずこんなところです。このあと、備忘録も兼ねて、細かい作業の様子なんかも書きますが、けっこう専門的なので、興味とお時間のあるかただけ、お読み下さいませ〜。
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ポータブル ディーガン 制作「詳細」(ここからが長文・笑)

ポータブル ディーガン 制作「詳細」
(ここからが長文・笑)

朋りんの家から、必要な部材を持ち帰るとき、形状をおおまかにメモ。デカい方眼紙を2枚繋ぎ合わせ、Vib の上に敷き、マジックで「桁」(音板が乗る横板)の接合位置などをトレースした。
 
直角の部分がほとんどない Vib。メジャーで計るだけじゃ済まないのね。両サイドの「さも重たそうな板」は持ち帰らないため、我が家で、桁の角度などを再現するのに必要な措置。
 

 
とりあえず、フレームの土台となる「底板」を作らなければ始まらない。方眼紙をもとに桁を合わせ、音板の紐がストレスのない位置にくるよう、さらに、黒鍵と白鍵の隙間を微調整して赤でマーク。パソコンで設計図を書く。
 
丸ノコとかは持ってないんで、この「底板」は自分で切れないから、東急ハンズで、サブロク(畳の大きさの板)から切ってもらう。
 
Vib もマリンバも、通常、4本の「桁」のうち、客席側の桁だけ縦に長い。(板の幅が広い)今回は「底板」に桁を乗せる仕組みなので、前の桁の幅を、ほかと揃えて切る必要がある。
 
でぇ、すごく硬いのよ、この桁の木材。ジグソーしか持ってないから、これだけでも大変だったぁ。ふつうの合板を切る、5分の1くらいのスピードで。ふぅ。
 

 
もともとこの Vib、バラして持ち運べるようになってて、桁は、半分に折れ曲がる。でもこれは、折れ曲がっちゃいけないパーツとなるので、がっちり固定する。特に外側の2本は、前に切った桁の端材を使い、頑丈に固定。
 

 
底板に、桁が乗る位置で角材を貼り付ける。(裏側から木ネジで固定するので、位置を合わせやすくする配慮)塗装の順序にも気を使う。あとになると難しそうな箇所は、先に塗っておく。
 
で、4本の桁を取り付け。この段階で、かなり満足感ありっ。(^^)
 

 
サイドパネルにはこだわったねぇ。木工の腕の見せどころ。
 
この部分、実は図のように A B 2つのパーツを組み合わせている。A 内側は、桁や底板に固定させるために何本も木ネジを打つ。ネジの間隔も不均等。それが、最終的に見えてしまうのがイヤだったので、B 外側をかぶせて、意匠的にキレイにみせる作戦。ぱっと見、1枚のパネルに見えるように、合わせた状態で造形し、丁寧にヤスリがけ&塗装。*板は MDF 厚さ18mm
 

 
ダンパーのアタリ調整用と、後述する「押し下げ軸」を通すため、大きめの穴を、底板にあける。移動用の取手も付けて、蓋(奥に見える棺桶のようなヤツ)も作って、本体フレームの完成。わーいっ。(^^)
 

 
「りはびゃんのリハ」が迫っていた。何とか間に合わせるべく、急ぎがちにサスティーンペダルを制作。
 
Vib のサスティーンは「押し下げ軸」を下げるとダンパーが音板から離れるしくみ。ポータブル化で、ペダルと本体がバラバラになっており「押し下げる」ペダルを作るのは意外に難しい。(支点が固定されてないから、押し下げる機構が作れない) そこで考えたのが、押し下げ軸とは別のパイプで本体とペダルを繋ぎ、ペダルの支点を固定する方法だ。
 
このへんの金属モノは、得意分野であるドラムのパーツを利用。タムホルダーやシンバルスタンドの金具だったり、ハイハットのロッドだったり。長さ調節や、バラしが簡単にできるように工夫。
 
 
ここで、りはびゃんのリハ。ポータブル・ディーガンのお披露目っ。マイクの内蔵までは行き着かず、本体にボーカルマイクを4本置いて対処。朋りんのプレイは「サスガ本職ダッ」(^^)。
 
 う〜む、サスティーンペダルが「キャシャ」だなぁ・・
 

 
えーい、サスティーンペダルを作り直そっ。もっと丈夫なものに。
 
演奏者が動かないピアノとは違い、Vib は、低音から高音へ、奏者の立ち位置が移動するので、ペダルの踏む部分には横幅が必要。
 
前回、踏む部分は「引き出しの取手」を流用したが、今回は「パイプ椅子の下部分」を切って使うことに。おおかた、この手のパイプ椅子は真ん中に接合部がある。接合部が無くて、太過ぎなくて、きれいなメッキのもの。web で調べた末、港北の IKEA に買いに行った。やっぱ、最後は目で見て決めないとね。
 

 
シンプルな仕組みで強度を出すのは、意外に難しい。
 
押し下げ軸と繋がる「アルミ角パイプ」を、なるべくピッタリはまるようにヤスリで整形。固定するのは「全ネジ」という、長いネジを使い、左右から袋ナットで締め上げる。
 
パイプ椅子は、その名のとおり「中空パイプ」なので、そのままで強く締めると変形していってしまう。これを防ぐため、ほぼピッタリの「アルミ丸棒」を中に叩き入れ、そのあと穴あけ。これで「ねじれ」を少なくでき、強度もアップ。
 
ペダル部は、パイプ1本で本体と繋がっているだけなので、ペダリングすると、どうしても前に動いてしまう。ガムテは必須。ガムテを貼るスペースも確保した。(^^)
 
なお、支点、作用点、力点の寸法は、オリジナルのペダルとほぼ同じにした。(朋りんの家でメモしておいた。)
 

 
さてさて、まだまだ終わりませんよ・・ いよいよエレクトリック系。まずは、マイクの内蔵だ。
 
当初、オーディオテクニカの、ラベリア型ステレオマイクを、6個ほど使うつもりだった。ダンパー部の下に、1直線に並べようと考えた。
 
このマイク、エレクトレット・コンデンサー型で、電源が必要。AC電源アダプターから、それぞれにパラで給電する実験をしたところ、2個、3個と繋げていくと、音声のレベルがどんどん下がってしまう。原因は究明しなかったけど、このマイクは断念。
 

 
電源のいらない、ダイナミックマイクにしよう。「成田 サウンドハウス」で売っている、激安のマイク「CM5」のエレメントを使おう。1本、1000円程度。家でのリハーサル用に、何本か所有していたので、音質はチェック済み。
 
前の計画では、ダンパー部の下に1直線にセットする予定だったが、それだとマイクは、音板の端っこを狙うことになる。できれば音板の中心を狙いたい、ってことで、黒鍵側に6つ、白鍵側に7つの、計13個、内蔵することにした。
 
なんでこんなに、たくさん要るかって言う説明をば。
 
共鳴管を無くして、フレームをスリムにしたので、マイクが少ないと、各音板の音量に差が出ちゃう。ハウリングにも強くしたいから、なるべく音板に近づけて設置したい、ってなると、個数を増やすしか無いんだよね。
 
1つのマイクが、2〜4音板を拾う感じ。バランス良く拾うために、マイクの指向性を考慮して、斜め上向きにセット。
 

 
マイクからエレメント(音を拾うユニット部分)を取り出して、空っぽの外側は、ハード・オフ行き。「なんちゃってカラオケ」をする人に買ってもらおう。(笑)
 
マイクのマウントにも気を使う。Vib は、音板を叩いたり、ダンパー部分からの振動があるので、ステーなどで直接マウントすると、かなりの振動ノイズを拾うだろうと考えた。
 
木ネジにはゴムチューブを被せ、ステーを、4つのスポンジで挟んで、振動が、直接マイクに伝わらないようにした。13個も作ってると、まるで内職のよう。(^^) *スポンジは「屋根に使う波板を固定するもの」を利用。
 

 
マイクが13個なので、本当は「13チャンネル以上のミキサー」を使いたいところだが、内蔵するので、デカいものは無理。マイクは2個ずつパラレルでまとめて、計7チャンネルに。4ch のミキサーを2つ、黒鍵側と白鍵側にセット。この2つのアウトを、更にパラレルで繋ぐワイヤリングとした。
 
ミキサーは「TECH TM-4」をチョイス。もっと小さい「Behringer MX400」も試したが、あれは「ラインミキサー」であり、マイクで使うと少々ハムノイズが出たのでやめ。
 
「ヴィブラフォン」という名前は、共鳴管の上の「丸い蓋」が回転して、ヴィブラート効果を生むことに由来する。
 
今回、共鳴管も回転する蓋も取ってしまったため、このままだと「これは Vib じゃないっ」って言われちゃう・・ので、エフェクターの「トレモロ」で、この効果を出すことにした。 *Beringer マルチエフェクター FX600
 
厳密には、丸い蓋の回転角度とかにより、音量だけじゃない音色変化の要因もあると思うんだけどね、ま、主に「音量変化」でしょう、と。実際、試してみると、かなりイイ感じのサウンドでやんす。
 

 
いよいよ、作業も大詰めっ。マスターボリュームと、アウトプットジャックの付いた、Master Box の制作。
 
2つのミキサーのアウトをここに入力し、エフェクターをバイパスするスイッチも付けた。ボリュームツマミは、レトロ風なデザインのモノを探したねぇ。(^^)
 
演奏者側の桁の中央あたり、桁を折り曲げるための金具を取った「穴」があって、これを目隠しする目的で、朋りんと自分の名前を刻んだ「プレート」を貼った。
 
この面には、前のオーナーの名前だったり、NHK 備品だったらしい番号など、色々と書いてある。
 
渡り歩いて、何人もの人に叩かれて・・改造されて、また活かされて。歴史を物語る文字は、消さずにそのまま残した。(^^)
 

 
こうして出来上がった「ポータブル・ディーガン」。手強かったけど、実に充実した時間。いろんな筋肉を使ったおかげで、ちょいと痩せたかも。あはは。
 
言って見れば、とても「原始的」で「単純」な楽器である。だから、プレーヤーの腕やタッチが如実に表れる。奥深いよ。ヴィブラフォン。
 
その後の「りはびゃんのリハ」で、ポータブル ディーガン、問題なく活躍してくれた。朋りん、ジャズ系は未知なる分野だと思うけど、耳コピーとか積んでいけば、レベルアップ間違いなしっ。頑張れ〜。
 
朋りんから「このディーガンは、私とはるきちさんのモノだと思ってます。」との嬉しいお言葉。ときどき家でセッティングして、遊ぶとするかぁ。
 
でも、自分で納得するほどには「上手く」ならないよ。絶対。。(笑)
 
おわり。
 

 
 
p.s さらにこのあと、マイクをやめてピックアップにしたんだけどね、それはまた後日・・